好きなことだけして生きてみることにした 第4回

中小企業振興公社──東京ではそう呼ばれる公益法人だが、都道府県や各自治体にも同じような機関がある。地域によって中小企業振興センターとか産業振興公社などと呼ばれ方は若干異なるが、行っている事業はほぼ一緒だ。その名の通り中小企業向けの各種支援活動を行っていて、経営相談や下請け取引の紹介、資金調達や融資の支援・相談、専門家派遣や人材育成、企業向けの各種セミナーなど、およそ企業運営に関わる活動のサポートを全般的に行っているところである。
他にも、企業へのデザイナーの斡旋や仲介、新商品や新事業の成功可能性評価、販路開拓なんかもやっていて、事業をしていてちょっと困ったらとりあえず相談しに行ってみるといいかもしれない。相談は基本的に無料なので。

さて、公社にやって来た私が受けたのは、公社の創業支援事業の一つである「起業相談」である。中小企業診断士が独立や創業を考えている人の相談に無料で乗ってくれるのだ。簡単な受付が終わると、あまり待たされることもなく、診断士のいる部屋へ通された。

この時点での私はまだ明確な起業のビジョンはなく、「とにかく起業したい」という気持ちだけが強かった。「起業して何をするのか」という目的部分があいまいだったのだ。
漠然と、自分はシステム開発ができるし、開発することが好きなので、何かサービスを作り出してそれを事業に出来ないものか…ぐらいしか考えていなかった。そんな、漠然として具体性のない夢物語しか言えない私に対しても、診断士の方は丁寧に起業のやり方をレクチャーしてくれた。

まず、具体的な事業内容を定めることが重要

例えば、「お店を開きたい」なら「どんなお店で何を売るのか」という事業の根本になる部分だ。私の場合、「サービスを作りたい」なので、「どんなサービスで何を商品として提供するのか」というのを決めないといけないのだ。

次に、現在の自分の状況を把握する

つまり、現在自分が自由にできるお金や資産がどの程度あるのかということだ。何気に給与振込型のサラリーマンで、家庭の収支管理を嫁さんに任せていた私は、自分が自由に使える資金の総額も、家庭全体の生活費などの必要経費も把握できていなかった。これらを正確に認識すると、起業するにあたってどの程度お金が必要なのかとか、どれくらいお金を稼がなければいけないのかが見えてくる。
あと忘れてならないのが、家族との情報共有である。まずは自分が起業しようとしている意志だけは伝えておくことが重要だ。家族の理解を得るのはその後で手順を踏んでいく。

自治体などの支援システムを利用する

実際の独立起業は、いつでも、すぐに、簡単にできてしまうものなのだ。だからといって、事前準備なしで始めた人と、入念に準備してから始めた人とでは独立後の生存率(あくまで事業者としての生存率)が大きく異なってくる。事業を起こす前と起こした後では、利用できる助成金やインキュベーション施設の利用料などにも若干差が出てくるのだ。基本的にまだ起業する前だと色々と優遇される点が多いので、手始めに自分の住んでいる自治体の創業支援サービスを調べてみると良い。
日本人の気風なのか、日本では独立起業する人が世界に比べるとかなり少ないらしく、それもあってか国や都道府県、各自治体で起業家に対して結構手厚い支援をしているところが多いのだ。起業するならそういう支援の仕組みを最大限利用することで、初期費用や当面の運転資金、税金、事務手続き等色々な面で援助してもらえる。

そして、事業計画を作る

事業を起こすにあたって自分がやろうとしていることを事業計画書としてまとめることが重要だ。融資や助成なしでも起業できるなら別に必須ではないのだが、計画書を作ることで自分のやりたい事が整理されて、具体的な目標も立てやすくなる。他人に事業を説明する際も、いくら口頭で云われてもいまいち夢物語にしか聞こえない事が、計画書を見せることで体系立って理解されやすくなるし、本気度も伝わるのだ。
まずは事業計画を作ってみてください
事業計画書とかもなく、ほぼ手ぶらで起業相談に行った場合、中小企業診断士さんから確実にそう云わるはずだ。

私は今の会社で、一時期、開発部門長をやっていたので、その時に部門の年間事業計画書を作ったことがある。ただ、会社内で作成される事業計画書というのは売上や収支計画書と呼ばれる計数表がメインで、本来の事業計画書の一部分でしかない。部門目標としてKGIやKPI等も設けるが、それらは上位部門や経営側からの数値達成のための方法論として便宜的に設定するためか、美辞麗句で加飾されがちで、いまいち実感が湧かないことが多かった。
基本的に会社の事業計画って、君の部門の予算はコレなので、その予算内でどれぐらいの利益を出せるか──という予測資料的な側面が強くて、投機的に「こういう新規事業を開拓するんでこれだけの予算ください」という本来の意味での事業計画書ってのは、新規プロジェクトが立ち上がった時でもなければなかなかお目にかからない。
かつてはそういう事業計画書を見たことも作成に参加したこともあった。どれもまさに「絵に描いた餅」で、こんなんじゃ承認されないだろうと思っていたが、そういうのに限って経営承認されてしまう。そして、当然失敗して赤字を垂れ流して1~2年で撤退というのばかりだった。
私はどうもサラリーマンが会社のお金で作る新規事業というものに対して懐疑的で、事業企画する側も経営承認する側もどこか無責任なところがあるように思える。特に会社経営側もサラリーマンだと、どちらも自分の懐が痛まないお金なので、新規事業に失敗してもとりあえず給与はもらえるから…という考えが根底にあり、それがどこか無責任さを助長しているように思える。

ちょっと愚痴っぽい話で脱線してしまったが、つまりは起業するために作る事業計画書というのは、私が今まで作ってきた「ぬるい」計画書ではないということだ。これからの私と、私の家族の生活がかかっているシビアな事業計画書なのである。とは云っても、崇高な事業計画を作る必要はない。だって今回の起業はあくまでも「好きなことだけして生きていく」ためのものだからだ。自分が「楽しく」できる事業を考えてそれをビジネスにするための計画書を作らないといけない。

そんな夢のような事業計画書が私に書けるのだろうか?

というか、本来あるべき事業計画書の書き方がいまいちわからないぞ。

事業計画書ってどう書けばいいの?

そんな私の疑問に、中小企業診断士の方は各所で開催されている「事業計画作成セミナー」の情報を教えてくれた。そして、ちょうど2ヶ月後
に私の住んでいる区が主催している「起業家セミナー・事業計画作成編」がまだ募集中だったのだ。
全4回の講義で4,000円と受講料も安いし、これは天啓にちがいない!

帰宅後、私は早速「起業家セミナー」に応募した。